東京地方裁判所 昭和46年(モ)10623号 判決 1972年10月09日
被申立人 富士銀行
理由
本件申立は、要するに、債権者代位権に基づき、申立人が保証を立てることを条件に、本件仮差押の取消を求める、というにある。ところで、申立人の主張によると、申立人が代位権行使により保全しようとする債権は、申立外小林義雄に対する本件不動産の所有権移転登記手続請求権であると解される。即ち、申立人は、右小林所有名義の本件不動産につき、停止条件付所有権移転仮登記を有しており、条件成就によりこれを本登記にするにつき、不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項所定の利害関係人ある第三者(本件仮差押債権者)である被申立人の承諾を必要とするところ、右所有権移転登記請求権を保全するため、右仮差押登記を抹消すべく、仮差押債務者小林に代位して本件仮差押の取消を求める、というのである。
しかしながら、債権者代位権に基き、債権者が債務者に属する権利を行使し得るのは、債権者において自己の債権を保全する必要がある場合に限られるところ、本件においては、申立人は、小林に対し、直接かつ直ちに、本登記手続をなすことを請求し得るものであつて(申立人と小林が共同で本件不動産の仮登記を本登記となすべく登記申請をしたことは申立人自ら主張するところである)、敢えて債権者代位権によりこれを保全する必要がないものであり、同時に又、登記上利害関係ある第三者である被申立人に対し、右仮登記を本登記となすにつき承諾を請求し得る(申立人の主張によれれば、同旨の訴は既に当庁昭和四五年(ワ)第一二四九一号事件として係属中である)のであるから、小林に対する登記請求権を保全するため、小林に代位して本件仮差押の取消を求める合理的理由は全くないものといわざるを得ない。結局本件申立は申立自体理由がないことに帰するから却下を免かれない。
(裁判官 蘒原孟)